「ご迷惑をおかけ致しますーっ」
道路工事をしている。真夜中の道を自転車で走っているとそんな声が聞こえた。
重機が動き、複数の男の人たちががやがやと作業するのが見える。
逆光のむこうにガードマンがいる。顔は見えないが、澄んだきれいな声だった。
自転車で傍を通る。特に迷惑はかからない。
しかし、そんな声をかけられ、一瞬声のする右側を見上げたが、彼女の顔は逆光で見えないまま、スッと私の自転車ははるか前方に進む。
その後もその声が記憶に残る。
ガードマンとは思えない声。
私はガードマンに偏見を持っている。
当然間違っていると思う。分かっている。
しかし、払拭できない。
大学生のときアルバイトでガードマンをした。
断続的に1年少し働かせてもらった。
私はアルバイトで入社し、2日目からリーダーになった。任命されたのだ。
片側通行で、向こうのガードマンが赤旗を上げたらこちらは白旗を同時に上げる。ペアの相手に対して見えるように。
意味としては向こうは止めるから、こちらは車を通過させる。
そんなルールもまだ知らないような2日目の朝「魚住くん、今日からリーダーにするから誰々、誰々、誰々のグループをよろしくね」と言われた。
その会社の皆さんが猛者揃いだった。
朝から酒を飲んでいる人。
パチンコ屋さんのオープンの警備で気づいたら上着を脱いで店内で打っている人。
本を持っていき、ひたすら立ち読みしながら警備する人。
元請けの建設会社の社長を私の目の前で殴った人。
車検切れの車を私は乗るよう言われ、自家用を使うようになった。
まだほかに書けないこともある。
その会社は私が辞め、しばらくし、倒産したのではあるが、そんなこんなで私はガードマンはろくな人がいないと偏見をもっている。
たった1人もまともな人がいなかったから。
歳をとり働いていた人はみんな何かしら人生に訳ありのようだった。
それらも偏見を助長した。
「ご迷惑をおかけ致しますーっ」
極めてまともな文言。そして何より澄んだ声。
顔は大きなランプみたいな照明が逆光で見えなかった。
帰りながら考えた。
まともな言葉で美しい声。
でも、彼女も何かあるのか。
ガードマンだし、女性がこんな夜中に働いている。
しかし、短期間で訳があり夜勤で、頑張っているのかもしれない。
いや、もしかしたら先月まで商売をされていて、コロナの影響で廃業し、ガードマンをされているのか。
いろいろ、そんな事を考える。
通りすぎる一瞬の彼女のひとことでそんなことを思い巡らせる。
ガードマンにも立派な方がおられるのは分かっている。